災厄と生活と。「ムーミン谷の彗星」が教えてくれること

ムーミン谷の彗星

台風、そして地震が続き
被害が甚大だった地域の衝撃的な映像やその様子に、少なからずショックを受けつつの一週間でした。

被害に遭われた方々に、安心して過ごせる時間が少しでも増えますように。

こんなときに…
とも思ったのですが

ある一冊の本について、ご紹介します。

「わかばが選ぶ、そばにいてくれた本100冊」でも取り上げた本ですが
私の胸の奥がキュッとなるようなエッセンスが詰まっていると感じたので、あらためて。

ムーミン谷の彗星

「ムーミン谷の彗星」

ムーミンというと、日本ではファンシーなパステルカラーのアニメの印象が強いと思うのですが
原作しか読んでない私からすると、モノクロの細い線で描かれた世界は、どちらかというと水木しげるさんを思わせるようなイメージ。

なかでもこの作品は、地球に彗星が落ちて来るという「災厄」がテーマの一冊で、子ども向けの児童文学とは思えないほど重く、暗い世界。

天候の変化や不吉な予感を告げる来訪者。
本当に彗星が地球に落ちて来るのか、確かめるために天文台に旅立つムーミンとスニフ。
その旅の途中でスナフキン(この作品がシリーズでは初登場)に出会うのですが、このスナフキンの生き様や考え方がひとつひとつ格好いい。

定住することなくテント生活をしているスナフキン。
きれいなガーネットが見られる谷を前にして、所有について語るシーンでは

自分で、きれいだと思うものは、なんでもぼくのものさ。
その気になれば、世界中でもな。

なんでも自分のものにして、もってかえろうとすると、むずかしいものなんだよ。
ぼくは、見るだけにしてるんだ。
そして、立ち去るときには、それを頭の中へしまっておくのさ。
ぼくはそれで、かばんをもち歩くよりも、ずっとたのしいね。

と、今でいう「ミニマル思想」を体現しているかのよう。

ムーミンやスニフが買い物を楽しむ傍らで、新品のズボンよりも、少し着古したようなズボンがいいなと悩みながら

持ち物をふやすというのは、ほんとにおそろしいことですね

と、購入しないことを決めたり。

一方で、ガーネットや宝物、そして自分だけが知っている子猫に対する執着を見せ
人間らしい欲を表現しているのがスニフなんですが
子どもっぽいなあと感じる反面、大人になってもこういう執着心ってあるよなあと共感させられます。

沢山、たくさんのものが溢れている世の中で
日々の暮らしで本当に大切なものは何なのか。

本当の豊かさって、何なのか。

危機的な状況が訪れたときに現れる「人間の本質」みたいなものが、丁寧に描かれている気がして
大人になった今も、読み返す度に色んなことを教えてくれる一冊です。